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東京地方裁判所 昭和31年(行)75号 判決 1958年2月22日

原告 エフ・エイ・ガントレツト

被告 東京国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三十一年五月三十日附でなした原告の昭和二十九年度分所得税に関する審査決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は豊島税務署長に対し、昭和二十九年度の所得税につき、所得金額を二十五万四千五百円、税額を六万八千四百円として確定申告したところ、豊島税務署長は所得金額を六十三万二千五百円、税額を二十二万三千円と更正し、昭和三十年八月二十八日原告に通知した。原告は右処分を不服として同年九月三十日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和三十一年五月三十日附で右請求を却下する旨決定して、その頃原告に通知した。

二、しかしながら、被告の右処分は次の理由により違法である。すなわち、原告は昭和二十三年六月二十八日から東京都豊島区池袋一丁目四十八番地に居所を有し、米国デラウエア州法に準拠して設立存続し、その本店を同国ニユーヨーク、ブロード、ストリート、六十七番地に有する、インターナシヨナル、スタンダード、エレクトリツク、コーボレーシヨン(以下訴外会社という)に勤務し、同社から給与の支払を受けている者であるか訴外会社は電気通信機、電子的及び電気的製品の製造及び販売等を業とし、租税特別措置法(以下法という)第五条の外資法人である住友電気工業株式会社及び日本電気株式会社と技術援助契約を締結し、技術資料の提供及び技術指導の業務にも従事しているものであるから、法第五条の二にいう外資法人の事業活動を容易ならしめる事業を営む法人である。したがつて原告が昭和二十九年度に同社から受けた給与についてはその五割を控除した額をもつて所得税法第九条第五号の収入金額とさるべきである。

仮りにそうでないとしても、訴外会社は住友電気工業株式会社及び日本電気工業株式会社の株式を保有し、その額は昭和二十九年一月一日現在においていずれも一億円を超えるものであるから法第五条四項第二号の外資法人である。したがつて原告は昭和二十九年度に同社から支払をうけた給与についてはその五割を控除した額をもつて所得税法第九条第五号の収入金額とさるべきである。

しかるに右給与全額をもつて収入金額とした豊島税務署長の更正処分は違法であり、右処分を維持した被告の処分も違法である。

三、よつて被告の右処分の取消を求めるため本訴に及んだ、

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、請求原因第一項は認め、第二項は争う。原告が昭和三十年九月三十日になした審査の請求はほんらい再調査の請求として取扱われるべきものであるが、これを所得税法第四十九条第四項第二号により被告に対する審査請求とみなすべきものであるとしても、原告が更正処分の通知を受けた昭和三十年八月二十八日より一ケ月経過後に右審査の請求がなされたものであるから、これを不適法として却下した被告の決定は適法である。と述べた。(立証省略)

理由

請求原因第一項については当事者間に争がない。

およそ税務署長により更正処分がなされた場合においては、所得税法第四十八条第一項但書の場合を除き、右処分が不服であるならば、先ず、右通知を受けた日から一カ月以内に、右処分をなした税務署長に対し再調査の請求をなすべきであるところ、本件は右但書の場合に当らない(更正処分通知書に国税局又は国税局収税官吏の調査によつて処分がなされた旨の附記がない場合であること当事者間に争がない)にもかかわらず、前記争のない事実によれば、原告は適法な再調査請求をなすことなく、直に被告に対し審査請求をなしたというのであるから、右審査請求は不適法であり、右請求を却下した被告の処分は適法であるといわなければならない。

また、仮に右審査請求をもつて本来再調査の請求として取扱うべきものであるとしても、前記争のない事実によれば、右請求は原告が本件更正処分の通知を受けた日から一カ月を経過した後になされた不適法なものであることは明らかであり、更に右請求がなされた後三ケ月間に豊島税務署長が原告に対し何らの決定通知をなしていないことは当事者間に争がないから、所得税法第四十九条第四項第二号により審査の請求とみなされたと解しても、右規定の趣旨は事件処理の権限を税務署長から国税局長ないし国税庁長官に移すことを意味するに過ぎず、再調査請求についての瑕疵そのものを治癒する効力を有するとはとうてい考えられないから、被告は当然右請求を不適法なものとして却下できると解すべきである。したがつて、右請求を却下した被告の処分は適法であるといわなければならない

よつて原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 越山安久)

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